
先代院長は医師となってすぐ軍医として従軍し終戦を迎えました。戦後上尾に戻った当時、中分のこの辺りは無医村でした。混乱期の不衛生な状態が続き赤痢や多くの感染症が蔓延する中、中分に医師がいるといううわさが広まり、ごく自然と先代の周りに患者さんが集まってきたそうです。うわさを聞きつけ患者さんが日増しに増えていく中、いつのまにか「開業」ということになったと聞いております。
内科、耳鼻科、小児科、皮膚科、外科、整形外科から簡単な手術まで。医師が不足し、満足に薬もない状態でも病気は待ってはくれません。まさに「何でも屋の医師」として外来はもとより往診もしていた姿は、当時の私には子供ながらに記憶に鮮明です。医療保険制度なども整備されているわけではなく、患者さんが盆や暮に自宅で収穫されたものをお持ちいただく姿も記憶に残っています。
患者さんはみな身体を病んで通院されているのですが、身体を病むとは=不安を抱えることです。先代はその不安を取り除けるよう一生懸命患者さんの話を聞き続ける人でした。私は大学病院での研究や臨床経験を通じ「現代の先端医療」をもかじっておりますが、先代の行なってきた「病だけでなく人を診る、全人医療」の大切さが今になってようやくわかり始めたところでもあります。
町や時代の変化とともに医院の役割も変わってゆきます。今後の社会の中では「在宅医療」が地域医療の要の一つになって行くことでしょう。先代が行なってきた往診から今も続く訪問診療は、榎本医院が上尾市と中分地域の皆様のお役に立てる一つの答えです。そして在宅医療に必要なものは、現代的な先端の医療知識と同時に、ご家族や病気の背景の事情まで理解した上で治療方針を決めていく全人医療なのかもしれません。